Introduction 空白

なにもない だから すべてがある なにもない だからこそ 美しい

草原の丘の上に 立っていた
風が吹き 霧が立ち込めてくる
あたり一面 真っ白な世界に 包まれていく


なにもない だから すべてがある
なにもない だからこそ 美しい
いま ここが どこなのか
そんなことも だんだん わからなくなっていく


目の前に見えている 真っ白な光景は
ひょっとしたら
いま という時間では ないのかもしれない


あらゆる時間のうちに 刻まれた記憶が
空気のなかに 混ざり合い 溶け合っている


記憶は 空気のなかに ゆっくりと溶けてゆき
水となって 川となって 海となって
雲となって 空高く 登っていく


やがて 霧がはれ
綺麗な水色の空が 見えてくる
空とわたし 在るのは ただ それだけだ


いま ここで わたしは空を見上げている
なにもない だから すべてがある

  • PhotosYoshiyuki Mori
  • WordsAtsuko Ogawa
  • DesignNoriaki Hosaka