
紙を創る。 vol.4
紙を創る工程は、非常にシンプルでありながら、アートそのものである。
ロギール氏は、かつて島根県の和紙職人に言われたように、紙を原料となる植物から育てている。楮(こうぞ)、三椏(みつまた)といった、紙のベースとなる素材、そして、紙と紙をつなぎ合わせる役割を果たす、黄蜀葵(とろろあおい)。すべてを、高知県梼原の工房で育てている。水は、山から天然水を引いてきているという。この水の中に、楮や三椏を浸し、繊維を砕く。桶の中にたっぷりの水とそれらを入れ、黄蜀葵から絞った天然の糊を合わせて、かき混ぜる。紙漉き用の木枠を桶に浸し、掬い上げて、透明で純度の高い山の天然水で、さらに何度も漉く。紙を木枠から外し、水分を抜き、そして、板に貼り付けて天日に干す。

紙を創る工程は、非常にシンプルでありながら、アートそのものである。水も、光も、風も、紙の植物もこの地の自然、土壌から生まれてくるものだ。ワインの味が、その地の土壌や風土を象徴する「テロワール=土地の味」と表現されるように、和紙もまた、テロワールそのものである。土地によって、作り手によって、その仕上がりは全く異なる。それぞれの美しさと質感がある。

土壌を育て、葡萄を育てるーそこに、作り手の考えと人生が表現されるのと同じく、和紙も作り手の心と人生そのものである。だからこそ、真摯に自然と向き合いながら創られた、和紙を手にしたとき、そこには、言葉では言い表せないほどの感動があるのだ。

究極の手仕事には、人の心を静かに動かす力がある。
かつて、ロギール氏がオランダの地で、和紙にはじめて出会ったときの衝撃は、おそらく、そこに日本という風土、そして、そこに生きる人々の何か大事なものに「触れた」ということなのかもしれないし、それは、モノであって、モノを超えた存在に感じられたのかもしれない。
- PhotosYoshiyuki Mori
- WordsAtsuko Ogawa
- DesignNoriaki Hosaka