
白 vol.1
氷河期の記憶を残した森の世界へと、足を踏み入れて行くー。
霧に包まれた、丘をゆっくりと登って行く。
丘を登った頂上に、水源の森ーブナの原生林があると聞き、是非とも訪れてみたいと思ったのだ。
横長の形をした、四国という島の真ん中には、背骨のように山脈が横に拡がっており、いくつもの山が折り重なっている。山脈を背にして、四国の南側には、高知県が横長に位置し、海沿いの地区を除き、そのほとんどが深い森に覆われている。豊かな植生と土壌が、四万十川と仁淀川という、2本の清流を生み出している。仁淀川の水の色は青く、「仁淀ブルー」と呼ばれる。実に幻想的で美しい水の風景が拡がっている。また、透明度も非常に高く、水質は国内随一である。
なぜ、こんなにも水が青く、透明なのか。それは、水源となる森の土壌が水に溶けやすい石灰質で出来ているから。微細な鉱物が水の中に含まれており、光があたるとき、それがブルーに輝く。まるで宝石のような水。青き美しい水を生み出す森の姿を、ぜひこの目で見ておきたかった。

愛媛県と高知県の県境に、東西約25kmに渡って、四国カルストと呼ばれる高原地帯がある。標高1000~1500mに位置し、白い石灰岩の土壌で出来ている。その高原地帯のなかに、ブナの原生林が存在する。約2万年前の最終氷河期には、四国の平野部でもブナの自然林が生息しており、氷河期の終わりとともに、ブナや白樺など、涼しい気候で育つ樹木は平野部からその姿を消し、標高の高いところだけ、現在でも、残されているという。氷河期の記憶を残したブナの原生林から流れる水が、青き美しい水の源というのも、なんとも神秘的なストーリーだ。

高原は牛の放牧地帯でもある。牛たちがのんびりと牧草を食べる姿を横目に、霧に包まれた道をゆっくりと歩いていく。やがて、霧と空の境目が見えなくなり、雲の中にいることを実感する。一番空に近い場所。霧に包まれた、真っ白な世界の中に身を浸していると、一体、今がいつなのか、時間の感覚もわからなくなってくる。
やがて、森の入り口に辿り着く。
氷河期の記憶を残した森の世界へと、足を踏み入れて行くー。

- PhotosYoshiyuki Mori
- WordsAtsuko Ogawa
- DesignNoriaki Hosaka