
白 vol.2
今、という時も、過去も、未来も、同じようにつながっている。この森は、時空を超えたところに存在し、私たちを永遠の世界へと導いていく。
森のなかは、実に静かで、同時に、豊かな音に満ちていた。風に揺れて、雨粒が葉の上に落ちる音。森のなかに流れる川が、勢いよく流れていく水の音。ブナの樹々の足元に茂る、青々とした苔に、水がゆっくりと染み込んでいく様をみながら、ゆっくりと森の音に耳を傾けていく。
人がいる気配は全くなく、足を踏み入れている私自身は、この森の中では、全くの異邦人である。森は、拒むことなく、受け入れてはくれるけれど、森の下にある、いわゆる「人が営む世界」とは、全く何かが違っていた。人が話す言葉ではなく、森には、森の言葉がある。森の中に流れる時間もまた、森の下の世界とは、速度も、その質感も違う。けれども、その言葉も、時間も、実に力強いものを感じる。森は、力強く生きていて、何万年も前から、生き続けている。ブナの樹々は、なんども生まれ変わり、そして、今も変わらずに、私たちの世界に美しい水を届けてくれる。

「目を少しだけ開けて、時空と時空の隙間を見つめるとき、そこに在る美を見つけることが出来る」ー音楽家の知人が「音を見つけるときの瞬間」を言葉に表現すると、こういうことだと教えてくれたのを森を歩きながら、想い出していた。時空と時空の隙間に在る「なにか」が、確かに、この森のなかには、ある。それは、樹々が発する言葉のようなものでもあり、空から降り注ぐ微細な光の内に、しっかりと感じ取ることができた。
今、という時も、過去も、未来も、同じようにつながっている。この森は、時空を超えたところに存在し、私たちを永遠の世界へと導いていく。あらゆる時間のうちに、刻まれた記憶が、空気のなかに混ざり合い、溶け合っている。記憶は、空気のなかに、ゆっくりと溶けてゆき、水となって、川となって、海となって、雲となって、空高く、登っていく。

To see a World in a gain of Sand..
And Eternity in an hour一粒の砂にも 世界をみる
Auguries of Innocence
そして ひとときのうちに 永遠をとらえる
William Blake
無心のまえぶれ
ウィリアム・ブレイク
「ブレイクの詩集」より(寿岳文章訳)
- PhotosYoshiyuki Mori
- WordsAtsuko Ogawa
- DesignNoriaki Hosaka